城窟行に、
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生[#レ]兒愼莫[#レ]擧、生[#レ]女哺用[#レ]脯。君獨不[#レ]見長城下。死人骸骨相※[#「てへん+掌」、第4水準2−13−47]※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]。
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とあるのは、唐の杜甫の兵車行に、
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信知生[#レ]男惡。反是生[#レ]女好。生[#レ]女猶得[#レ]嫁[#二]比鄰[#一]。生[#レ]男埋沒隨[#二]百草[#一]。
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とあると同樣、男子は兵役に就かねばならぬから、出生せぬ方が、若くば成長させぬ方が望ましい。女子にはかかる苦勞がないから、男子を生むよりは、むしろ女子を生む方が、利益であると云ふ思想を、露骨に述べたものである。その兵車行に出征の士卒の一族が別を惜しむ有樣を敍して、
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耶孃妻子走相送。塵埃不[#レ]見咸陽橋。牽《ヒキ》[#レ]衣頓[#レ]足※[#「てへん+闌」、第4水準2−13−61]道哭。哭聲直上干[#二]雲霄[#一]。
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とあるが、衣を牽き袖に縋つて哭泣するなど、隨分女々しきことではないか。唐の王翰の涼州詞に、
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醉臥[#二]沙場[#一]君莫[#レ]笑。古來征戰幾人囘。
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の句がある。洒脱の樣にも見えるが、出征軍人の心得としては、不都合千萬と申さねばならぬ。唐の李白の戰城南も、唐の李華の弔[#二]古戰場[#一]文も、何れも戰爭を詛うたものである。
 その尤も極端なものは、唐の白居易(白樂天)の新豐折[#レ]臂翁といふ新樂府である。この樂府は當時の都の長安附近の新豐といふ土地に住居する、右臂の折れた老翁の一生を歌つたもので、この翁が二十四歳の時、雲南征伐に徴發されたが、出征が厭はしき儘、夜中われと我が手で、その右臂を毆《たた》き折り、生れも付かぬ不具者となり、遂に兵役を免除されて故郷に歸り、八十八歳の今日まで長命して居る。折つた臂は時々に痛を起して、徹霄眠られぬ程の苦痛はあるが、六十餘年前に雲南地方へ出征した人は、皆異域の鬼となつて、一人も故郷の土を踏んだものはない。之に比して折臂の翁の一生が、遙に幸福であると述べて居る。
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臂折來來六十年。(中略)至[#レ]今風雨陰寒夜。直到[#二]天明[#一]痛不[
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