埋みつゝ

裁《た》たまくをしき唐綾《からあや》の
ふすま襲《かさ》ぬる姫君の
夢驚かす風の音は
閨のほとりに騷がねば

紅匂ふ唇に
やさしき息のかよへりや
花ぐしおちしまへ髮に
光を投げん灯《ひ》は消えぬ

錦の帳《とばり》奧ふかく
まろねの袖をかたしきて
月はさせども身じろがず
花は散れどもさめずして

若紫《わかむらさき》の房《ふさ》ながき
籠の鸚鵡も餌《え》を呼ばで
苑に對《むか》へる渡殿《わたどの》の
褄《つま》はうばらにおほはれぬ

湯殿に懸けし姿見の
鏡に花の這《は》ひよるまで
荒《あれ》たる館《たち》の花妻の
夢よ醉ふらん薔薇の香に

南の空に秋立ちて
常世の雁はかへれども
まぼろしなれやうたゝねの
夢にも魂のかへらざる

南の空に
あきたちて
常世のかりは
歸れども
  〜〜〜〜〜〜〜


  かたち


浮べる雲の一綫《ひとすぢ》は
碧きが中にたゆたひて
覆輪《さゝべり》着けし銀の
天の島とも見ゆるかな

潮の底より月出でゝ
影、中空に盈ち來れば
浪靜かなる大和田の
月は舟とも見ゆるかな

舟か水門《みなと》の舟ならば
せめては長き秋の夜を
際《はて》なき水に流され
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