舟)を浮べ、ひとりそれに籠らば世に味氣なき事を思ふまじと思つた、一棟の家を建つるべき入りめと一人耕すべき田とはすでに持てり。住まん哉。人來らぬ湖上に」
こゝに人を見る。渠等に夫あり妻あり。かれ等われより暗《オロカ》にしてわれよりしれものなるに、來りてわれを侮りわれを辱しむ。われもとより其心術の陋しきをあはれむばかりの誇りはあれど、長く其眼をのがれてひとり在らんことを希ふ。
今せん無き夢を空にゑがいて徒らに野に朽つべきか。われに猶用うべき力あり。初より許されたる命のかぎり生きんのみ。
やがては君、わが造くるべき水槨の壁に題す詩をあたへた。
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眞個至情の文、讀んで泣かざるは人に非ずと思ひます。
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足は痛い、庫に入つて、本をさがす事も出來なくなつた。弟は一日うちに居るぢやなし、またさう使へるもので無い、まして夜痛い足をなぐツてくれとはたのまれぬ。痛んでねられぬ時、僕はひとり暗い座敷に座つて鷄の啼く時分迄ゐる事がある。布團へねてゐては却て痛むのだ。
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 かやうな意味の文句は書面毎に絶えたことはないが流石に人間最高の趣味を解し
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