萱野《かやの》の末にうそぶきて
君はとがみを飛ばしけむ

ぬすめる芋を野に燒いて
※[#「酉+僉」、第4水準2−90−43]《ゑぐ》きに吻《くち》を腫《は》らしては
七日の月の影踏んで
小篠の笛も鳴らしゝか

おもかげに見る
  あげまきの
友と呼ばんは
  うらみなり
世にはぐれたる
  一人子の
君は悲しき
  弟よ

さもあれ空の
  雲すらも
やがては洞に
  歸るもの
歸れ月波《つくば》の
  ふところに
君ゆゑ泣かむ
  人もあり
[#ここから3字下げ]
はとがみ、草の名、形通草の實に似たり、みのりて莢裂くれば中におびたゞしき有毛痩果あり、試みに之を吹けば、風に乘り森を越え林を過りて、漂々として終にゆくところを知らず
[#ここで字下げ終わり]
  〜〜〜〜〜〜〜


  征矢の光
    『無弦弓』を讀む


鳥鳴き過ぐる
  巖の上に
黄金の弓を
  携へて
征矢の行方を
  見送れば
光はそれか
  入相の

西に聚まる
  紫の
霞の底に
  潛みては
白羽の影を
  中天に
漂ふ雲の
  縁《へり》に投げ

浪靜かなる
  大和田の
八重の潮路に
  煌めけば
沖行船も
  紅の
流れし中に
  隱れけり

鏃は天に
  とゞまりて
新たに星と
  生《な》りにけむ
おぼめかしくも
  北の方に
落る光の
  弱きかな

野火により來る
  小牡鹿の
外山に啼くは
  聞ゆれど
鴎下り居し
  白濱の
潮に朝の
  聲絶えて

貴艶《あて》なる嫦娥《ひめ》の
  顏は
さし出づる月の
  色に見えて
露置きそめし
  秋の野に
夕の聲の
  かすかなり


  哀歌


羅綾《られう》の裳裾《もすそ》かへしては
春を驕《おご》りし儷人《れいじん》の
腰に佩《お》びたる珠《たま》鳴りて
秋|燕京《ゑんきよう》にたけてけり

霜こそ置かね天津の
橋に見馴れぬ旗立ちて
紫深き九重の
雲もかへるか峽西に

陽明園《はこやのやま》に炬《ひ》入《い》りては
玉の宮居も燒けつらん
蓮葉枯れし夕暮の
池に舟|行《や》る人もなし

金房垂れし鞦韆《ふらこゝ》に
みだせし髮はをさめじな
西に流るゝ天の川
曉《あかつき》浪《なみ》の驚けば

永安門《えいあんもん》の階段《きざはし》に
落ちたる花は誰が妻か
脛も血潮に染めなして
劒ぞ胸に刺されたる
  〜〜〜〜〜〜〜
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