う。何等の悪事をもしちゃいないのかもしれない。彼だって、のどかな罪のない幼時はあっただろう!
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チュアン イエン ペイフォン ツイ
イエンジュン ハン コアンフイ
パイ ファニャン ワンアルツイ
ホン ゾアン イ コン ウエイ
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「畜生! 俺れが人殺しでもしたと云うのか、畜生!」
九
支那では土匪が捕まると、市街をひきずりまわして、見せしめに、群集の面前で断罪に処するのが習慣となっている。斬られた頸は三つも四つも並べて路傍の電柱にぶらさげられ、晒《さら》し首にされた。
その頸はうす気味が悪かった。あるやつは、口をあけて歯くそのついた汚い歯を見せていた。あるやつは、笑いそうだった。しかめッ面をしているのがあった。夏は腐爛した肉に、金蠅がワン/\たかった。
人々は、一と目で、すぐ顔をそむけ、あとを見ずに通りすぎてしまう。土匪の中には、勿論、強盗を働いたものもあった。殺人をやったものもあった。邦人で無惨に殺された者も二人や三人ではきかない。
彼等は庄長から金をせびり、若しよこさなければ、土墻をめぐらした村を襲い、妻女を奪い、家を焼き、村民全部を惨殺したりなどもやった。たび/\それをやった。いくら晒し首にしたところで、彼等の悪業のむくいとしてはやり足らぬかもしれなかった。だから、掠奪の被害をなめた群集は、むしろ残忍な殺し方を歓喜した。
「跪下《クイシャ》!」
洋車からおろされた三人に、馬上の士官が叫んだ。三人は、へたばるように、くた/\と地べたに膝をついた。兵士は、荒々しく囚徒の肩を掴んだ。
「西へ向くんだ、馬鹿! そんな方に向いて仕置きを受けるちゅう法があるか、馬鹿!」
また鎖が鳴った。三人は一間半ずつの距離に坐り直らされた。
一人の肥ったせいの高い兵士は、青竜刀を肩からはずして、空間に気合をかけて斬る練習のようなことをやっていた。青竜刀は刃のところだけがぴか/\光っていた。鉈《なた》のようだ。
「包子《ポオツ》を持ってこい! 包子を持ってこい! 包子が食いてえんだ!」
さきに、砲台牌《ポータイパイ》を要求したデボチンは、足の鎖を鳴らし、縛られた自由のきかない手を、ぱたぱたやって、メリケン粉の皮に豚肉を入れて蒸した包子をほしがった。
「ぜいたくぬかすな!」
「えゝい! 持って来い! 持って来い
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