た。と、内川らはマッチ業界の世界統一を企図している瑞典の資本を結合した。工人たちは、また、強敵と立ち向うこととなった。
それから、最後に、猪川幹太郎は、このドサクサ騒ざに、家も、仕事も、子供も、すっかり失ってしまった。彼は、マッチ工場を馘《くび》になった。
一郎は、どこで、どう失われたか、皆目分らなかった。恐らく支那人にツマミ殺されたのだろう。彼は、それを残念がった。トシ子によく似た子供を失ってしまった。それが惜しかった。しかし、また一方、殺されたなら殺されたっていゝとも思った。
だが、ある日である。
彼は、以前の住居の十王殿附近をブラ/\歩いていた。破壊のあとはまだ恢復していなかった。街は、一層きたなく、ホコリッぽかった。支那人が生大根の尻ッポをかじっていた。
「※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀《テイヤ》! ※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀!」
ふと、彼の足もとへ近づいて来る者があった。汚い支那服を着た子供だった。頭は支那の子供のように前髪と、ビンチョを置いて剃られていた。
「※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀! ※[#「父/多」、第4水準2−80−13]呀!」
よち/\とその子供は、遊んでいるほかの子供の仲間から離れて歩いてきた。
見ると、それが一郎だった。
馬貫之《マカンシ》の細君が、辻の枝が裂けたアカシヤのところに立っていた。彼は、思わず、子供を抱きあげた。
一郎は、馬貫之に助けられていたのである。
[#地から1字上げ](昭和五年十一月)
底本:「筑摩現代文学大系 38 小林多喜二 黒島傳二 徳永直 集」筑摩書房
1978(昭和53)年12月20日初版第1刷発行
入力:大野裕
校正:原田頌子
2001年8月14日公開
2006年3月23日修正
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