やっといてやったら、また何ぞになろうと思うていない。」と、おきのは答えた。
「ふむ。そりゃ、まあえいが、中学校を上ったって、えらい者になれやせんぜ。」
「うちの源さん、まだ上へやる云いよらあの。」
「ふむ。」と、叔父は、暫らく頭を傾けていた。
「庄屋の旦那が、貧乏人が子供を市《まち》の学校へやるんをどえらい嫌うとるんじゃせにやっても内所《ないしょ》にしとかにゃならんぜ。」と、彼は、声を低めて、しかも力を入れて云った。
「そうかいな。」
「誰《だ》れぞに問われたら、市へ奉公にやったと云うとくがえいぜ。」
「はあ。」
「ようく、気をつけにゃならんぜ……」と叔父は念をおした。そして、立って豚小屋を見に行った。
「この牝《めす》はずか/\肥えるじゃないかいや。」
親豚は、一カ月程前に売って、仔豚のつがいだけ飼っている。その牝の方を指して叔父はそう云った。
「はあ。」と、おきのは云って、彼女も豚小屋の方へ行った。
「豚を十匹ほど飼うたら、子供の学資くらい取られんこともないんじゃがな、……何にせ、ここじゃ、貧乏人は上の学校へやれんことにしとるせに、奉公にやったと云うとかにゃいかんて。」と、叔父は
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