樹齢はかなり短い。十年そこそこで、廃木となる。梅は実生からだと十年あまりかかって始めて花が咲き実を結びはじめる。が、樹齢は長い。古い大木となって、幹が朽ち苔が生えて枯れたように見えていても、春寒の時からまだまだ生きている姿を見せて花を咲かせる。
早生の節成胡瓜は、六七枚の葉が出る頃から結顆しはじめるが、ある程度実をならせると、まるでその使命をはたしてしまったかのように、さっさと凋落して行ってしまう。私は、若くて完成して、そして速かに世を去って行った何人かの作家たちと、この桃や胡瓜のことを思い合せて興味深く感じるのである。
こういう関係は、作家ばかりでなく他の仕事に従う者の上にもあるように思われる。
ところで私のように長い病気で久しく仕事をしないで生きているものはそれではその逆で自然が仕事が出来るまで長命さして呉れるだろうか、あるいはながいき出来そうな気もする。これまでの仕事には、まだ自分が三分くらいしか出せていなかった気もする。
が、本当のことは、生きてみなければなんとも云えない話である。
○
さきの話ずきの女は、この春月の詩碑へたずねて遠くからちょいちょい人が来
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