っている。
だが、彼等は、その毛虫の嫌う、社会主義によらなければ、永久の貧乏から免れないのだ。
それをどうして、百姓に了解させるか。
それから、百姓の中には、いまだに、自分が農民であるという観念に強くとらわれて、労働者は彼等と対立するかの如く思いこんでいる者が少くない。農民から立候補した者は、自分の味方であるが、労働者は、自分たちの利益を考えないものであるように思っている。だから、附近の鉱山から立候補するものがあっても、近くの農民がそれに投票しようとしない。そして却って、地主で立候補した者に買収されたりするのである。
政治狂
一村には、一人か二人、必ず政治狂がいる。彼等は、政友会か、民政党か、その何れかを──している。平常でも政治の話をやりだすと、飯もほしくないくらいだ。浜口雄幸がどうしたとか、若槻が何だとか、田中は陸軍大将で、おおかた元帥になろうとしていたところをやめて政治家になったとか、自分たちにとっては、実に、富士山よりも高く雲の上の上にそびえていて、浜口がどうしようが、こうしようが、三文の損得にもならないことを、熱心に喋って得々としている。そういう男は選挙に際して、嬶《かかあ》や子供が饉《う》えようが、蚕が桑の葉をなくして死のうが、そんなことはかまわずに、只で運動をして歩く。自分の村ばかりでなく、隣村まで出かけて喋くりに行く。自分の村から百五十票取って見せると云いだせば、そういう男は必ず取る。若し、自分の村で約束したゞけ取れそうになかったら、隣村へ侵蝕してでも、無理やりに取る。
候補に立とうとするような地主は、そういう男を必ず逃がさずにとっ掴まえ、金を貸したり(勿論、貸した金から利子を取る!)田を作らしたりしておいて、必要に応じて走りまわらせるのである。又、そういう男に限って、金を借りていると義理があるように思っているのだ。
そういう男をアジテートすることは、山を抜くほど困難な仕事だ。
底本:「黒島傳治全集 第三巻」筑摩書房
1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2009年6月17日作成
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