、新聞記事を見てだったか、本を読んでだったか、その日興奮していた。話は、はずんだ。僕は、もう十年か十五年もすれば吾々の予期するような時代がやって来るだろう。その時には地主も資本家やその他の、現在に於ける社会的地位が、がらりと変って来る。というようなことを喋ったものだ。
すると親爺は、
「えゝい、そんな早よ、なりゃえゝけんど、十年や十五年でなに、そんなになろうに!──俺等が生きとるうちにゃなか/\そこまで行かない」と、水ばなをすゝり上げた。
僕は今、そのことを思い出す。
親爺は、六十年の経験からそんなことを云ったのだろう。
底本:「黒島傳治全集 第三巻」筑摩書房
1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2009年6月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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