げて呉れるように、折入って頼んだ。
主人は、顔色を動かさずに、重々しく
「何で暇を取らすか、それゃ、お前の身に覚えがある筈じゃ。」と云った。
与助は、ぴり/\両足を顫わした。
「じゃが、」と主人は言葉を切って、「俺は、それを詮議立てせずに、暇を取らせようとするんじゃ。それに、不服があるなら、今すぐ警察へ突き出す。」
急に与助は、おど/\しだした。
「いゝえ、もう積金も何もえいせに、その警察へ何するんだけは怺《こら》えておくんなされ!」
「いや、怺えることはならん!」
「いゝえ、どうぞ、その、警察へ何するんだけは怺えておくんなされ!」与助は頭を下げこんだ。――
とうとう、彼は、空手で、命から/″\の思いをしながら帰った。二三日たって、若い労働者達が小麦俵を積み換えていると、俵の間から、帆前垂《ほまえだれ》にくるんだザラメが出てきた。
彼等は笑いながら、その砂糖を分けてなめてしまった。杜氏もその相伴《しょうばん》をした。
汚れた帆前垂れは、空樽に投げかけたまゝ一週間ほど放ってあったが、間もなく、杜氏が炊事場の婆さんに洗濯さして自分のものにしてしまった。
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