地米に戻ると、はじめて本当に身につくものを食った感じで、その身につくものが快よく胃の腑から直ちに血管にめぐって行くようで、子供らは、なんばいもなんばいも茶碗を出すのである。
 そして、あゝやっと息をついたという。おとなも本当にそうだと思う。
 ところが、この誰れもきらいな外米を、好んで買う者もある。しかも内地米を混合せず、外米ばかりを買うのである。
 それは麦を主食としている農民たちで、その地方には田がなく、金儲けの仕事もすくなく土地の条件にめぐまれない環境にある人々だ。外米は、内地米あるいは混合米よりもいくらか値段が安いのでそこを見こんで買うのである。これを米屋の番頭から聞きこんだあるはしっこい女は、じゃ、うちにある外米を売ってあげよう、うんと安くしてあげてもかまわないから、と云いだした。
 往復一里もあるその部落へその女は負い籠を背負って行ったそうだが、結果がどうなったかは帰って来ても喋らない。しかし、再三籠を背負って行くのを見た者があるそうだ。
 が、最近また米の配給方法が変って外米を鶏に呉れてやった船長の細君も、籠で売りに行く女も、もうそんなことができなくなってしまった。それは、そんなのを防ぐためだろうが、内地米と外米をすっかり混合してしまって配達するのである。鶏に呉れてやる女には、これはよいことだが、一週間に一度だけ内地米を食って息をついていた子供らにはこれはなか/\慰められないおお事である。



底本:「黒島傳治全集 第三巻」筑摩書房
   1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2009年6月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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