きました。
「まあ、なんです?」
「リカつたら、お母さん、リカつたらね、蓄音器をこはがつてるのよ。」
「うそだい。」と、リカはまつ赤になつていひました。
「こはがつてなんかゐるもんか。これあ器械だよ。」
かう言つて、リカは、しゆつと鼻をすゝりました。お母さんは顔をしかめて、リカの肩をつついていひました。
「さあ、もうたくさん。あつちへおいでよ。ね。」
「あらまだいゝわ。」とサーシュカがいひました。
「もう少しゐさせてあげてよ、ね。」
「いゝえ、もうたくさんですよ。さあ、あつちへいきなさい、リカ。」
リカは、台所へかへりかけましたが、食堂のところまでくるとふりむいて、
「あ、さうだつけ、おくさま、駄賃をおくれよ。」
「あげますとも。」
「ぢやァ、今すぐおくんなさい。でないとおら、あすは夜あけにいくだから。」
「あいよ、すぐ女中にもつてよこさせます。さあ、あつちへおいで。」
「おらに、ぢかに、ください。その方がまちがひがないから。夜明けにはやくいかないと父ちやんは泊るでねえつていつたんだから、しかられるといけないから。」
そのときボーリヤが出て来ました。
「坊ちやん、ぢやァさよなら。」
リカは、手を出していひました。ボーリヤは手を出さうとしましたが、急に、その手を引つこめてしまひました。きたない子と握手をしてはいけないといはれてゐるからです。リカは、くるりとまはつて、台所へいきました。
おくさんは女中をよんで、リカに駄賃をわたさせました。リカはそのお金をぼろッきれにつゝんで、長靴の中へおしこむと、やつと安心して、腰かけの上にからだをのばしながら、晩御飯の支度をしてゐる女中に話しかけました。
「なにを焼いてるの?」
「うなぎよ。」
「うふん、この家の人たちは、うなぎを食ふのかい。ふうん、おらが村のだんなは毎日鳩をくふよ。」
晩御飯がすむと、奥からピアノの音がひゞいて来ました。
リカは、それを聞きながら、うと/\となりかけましたが、急におき上つて、さけびました。
「あゝ、さうだつけ。馬のことをわすれてゐた。」
リカは靴をはいて、庭につないである馬のところへ、水をやりにいきました。
「ほうら。」
リカは、馬のしりをぴたんとうつと、水桶をどさんとおいて、空を見上げました。馬はうれしがつて、リカに鼻をすりつけながら、ひくゝなきました。
「あまつたれるない。」
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