オルの所へ参る筈ですから。あなたはお出なさらんですか。」
「いいえ。わたくしはもう一遍※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の所へ参らなくてはなりません。」
「成程。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の所へ。まあ、なんと云ふ軽はずみな事をしたものでせうな。」
 己はチモフエイに暇乞をして出た。頭の中には種々の考が輻湊してゐる。併し此時己は思つた。「兎に角チモフエイは正直な善人である。あの男が今年在職五十年の祝をするのは結構だ。さう云ふ風に勤める男は当世珍らしいから。」
 己は急いで新道へ出掛けた。経験のあるチモフエイとの対話を、イワンに伝へようと思つて出掛けたのである。それには無論どうなつてゐるかと云ふ物見高い心持も交つてゐて、己の足を早めたのである。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中にどんなにして居着いたか、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中で人間がどうして暮して行かれるか知りたいと思ふ心持も交つたのである。己は歩いてゐて、時々は夢を見てゐるのではないか
前へ 次へ
全98ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング