スことさえありますよ……しかし、むろん違います、まるで違いますよ」と、アリョーシャはあわてて言いなおした。
「いや、そいつは、おまえが『まるで違う』と言ったところで、なかなか貴重な報告だぜ。そこで一つおまえに聞きたいのはね、どういうわけでおまえのいうエズイタや審問官たちは、ただ物質的な卑しい幸福のためのみに団結したというんだい? なぜ彼らのなかには、偉大なる憂愁に悩みながら、人類を愛する受難者が一人もいないというのだい? ね、けがれた物質的幸福をのみ渇仰《かつごう》している、こういう連中のなかにも、せめて一人ぐらい、僕の老審問官のような人があったと想像してもいいじゃないか、彼は荒野で草の根を食いながら、みずから自由な完全なものになるために、自分の肉体を征服しようとして狂奔したのだが、人類を愛する念には生涯変わりがなかったのさ。ところが、一朝、忽然として意志の完成に到達するという精神的な幸福はそれほど偉大なものではない、ということを大悟したのだ。それは、意志の完成に到達した時には、自分以外の数億の神の子が、ただ嘲笑の対象物となってしまう、ということを認めざるを得ないからだ。全く彼らは自分
前へ
次へ
全844ページ中779ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング