ソ止まると、遠くから様子を眺めていた。彼は何もかも見てしまったのだ、キリストの足もとへおろされて女の子がよみがえったのを見たのだ、そして彼の顔は暗くなった。その白い濃い眉はひそめられ、眼は不吉な火花を散らし始めた。彼はその指を伸ばして、警護の士に向かい、かの者を召し取れと命令した。彼はそれほどの権力を持ち、群集はあくまでも従順にしつけられ、戦々恐々として彼の命に服することに慣らされていたので、さっと警護の者に通路をあけた。そして、急にしいん[#「しいん」に傍点]と墓場のように静まり返った沈黙の中で警護の者はキリストに手をかけて引き立てて行く。群集はまるでただ一人の人間のように、いっせいに土下座せぬばかりに老審問官の前にひれ伏す。彼は無言のまま一同を祝福しつつ通り過ぎて行く。警護の者は囚人《めしうど》を神聖裁判所の古い建物内にある、陰気で狭苦しい丸天井の牢屋へ引きたてて来ると、その中へ監禁してしまった。その日も暮れて、暗くて暑い、『死せるがごとき』セヴィリヤの夜が訪れた。空気は『月桂樹とレモンの香に匂《にお》って』いる。深い闇の中で、不意に牢獄の鉄扉があいて、老大審問官が手に明かりを持っ
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