レ吻はやめにしようと思いますわ」こう言って、彼女は、さもおかしそうに笑いだした。
「御随意に……いったいあなた、どうなすって?」とカテリーナ・イワーノヴナは不意にぶるっと身震いをした。
「じゃね、よく覚えておいてくださいな、あなたはあたしの手に接吻なさいましたけれど、あたしはしなかったってことをね」ふっと、彼女の眼の中で何やらきらりと光ったものがあった。彼女は恐ろしく執拗《しつよう》にカテリーナ・イワーノヴナの顔を見つめた。
「失礼な!」と不意に何か合点がいったらしく、カテリーナ・イワーノヴナはこう口走ると、かっとなって席を飛び上がった。グルーシェンカもゆっくりと立ち上がった。
「それでは、あたしミーチャにもさっそく電話してやりますわ、――あなたはあたしの手を接吻なさいましたけど、あたしのほうはまねもしなかったって、さぞあの人が大笑いすることでしょうよ!」
「けがらわしい、出ておいで!」
「まあ、恥ずかしげもなく、お嬢様、なんて恥ずかしいことでしょう、あなたのお身分でそんなはしたない口をおききになるなんて」
「出てお行き、売女《ばいた》!」とカテリーナ・イワーノヴナはわめき立てた。すっ
前へ
次へ
全844ページ中444ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング