はずであった。グリゴリイは家へとって返すと、提燈《ちょうちん》を点《とも》して庭口の鍵を持った。そして妻が、自分にはどうしても子供の泣き声らしく聞こえる、きっと死んだ赤ん坊が自分を呼んで泣いているのだと思いこんで、ヒステリイのようにおびえているのには眼もくれず、黙ったまま庭へ出て行った。ここで彼は明らかに、その声は耳門《くぐり》からほど近く、庭の中に立っている湯殿の中から漏れてくるのであって、疑いもなく女のうめき声だということを確かめた。湯殿の戸をあけて中をのぞいた時、彼はその光景の前に立ちすくんだ。いつも街をうろつき回って、リザヴェータ・スメルジャシチャヤというあだ名で町じゅう誰知らぬ者もない宗教狂女が、邸内の湯殿へはいりこんで、たった今赤ん坊を生み落としたばかりのところであった。赤ん坊は女のそばにころがっており、産婦は気息奄々《きそくえんえん》たるありさまであった。彼女は何ひとこと物を言わなかったが、それは言いたくても、もう口がきけないからであった。しかしこの事件については特別に説明しなければならない……

   二 リザヴェータ・スメルジャシチャヤ

 ここに、グリゴリイが以前か
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