ことであるが、フョードル・パーヴロヴィッチは妻が金を受け取るやいなや、さっそく二万五千ルーブルからの金をすっかり巻きあげてしまった。したがって、彼女にとっては、これだけの大金が、あとかたもなく消えてしまったわけであるが、世間の人の噂によると、その際にも新妻のほうが良人よりも比べものにならないほど高邁《こうまい》な態度を示したという。やがて彼は、やはり彼女の持参金の中にはいっていた小さな村と、かなりに立派な町の家をも、何かそれ相当の証書を作って、自分の名義に書き換えようと、長いこと一生懸命に骨を折っていたが、絶え間なしにあつかましいおねだりや哀願をして、妻の心にいわば、軽蔑と嫌悪《けんお》の念とをよび起こし、女のほうを根負けさせて、ただそれだけで、女の手を逃げようとあせっていたのに相違ない。ところが、運のよかったことには、アデライーダ・イワーノヴナの里方が仲にはいってこの横領を押えてしまった。夫婦の間によくつかみ合いがあったということは全く周知の話であるが、言い伝えによると、打ったのはフョードル・パーヴロヴィッチではなくて、アデライーダ・イワーノヴナのほうだという。彼女は癇癪《かんしゃく
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