閧フうちには、この世界の大きな謎《なぞ》が潜んでいるのだ。おまえがもし『地上のパン』を受け入れたなら、個人および全人類に共通な永遠の悩み、――※[#始め二重括弧、1−2−54]何人を崇拝すべきか?※[#終わり二重括弧、1−2−55]という疑問に対して、回答を与えることになったのだ。自由になった人間にとって、最も苦しい、しかも絶え間なき問題は、一刻も早く自分の崇むべき者を捜し出すことである。しかし、人間という者は議論の余地なく崇拝に値する者を求めている、万人ことごとく打ちそろって、一時にその前にひざまずき拝し得るような、絶対的に崇むるに足る対象を求めているのだ。これらの哀れな被造物の心労は、めいめい勝手な崇拝の対象を求めるだけではなく、万人が信服してその前にひざまずくことのできるような者を捜し出すことにあるのだ。どうしても、※[#始め二重括弧、1−2−54]すべての人といっしょ※[#終わり二重括弧、1−2−55]でなければ承知しないのだ。この共通な崇拝の要求が、この世の初まりから、各個人および全人類のおもなる苦悩となっている。崇拝の共通ということのために、彼らは互いに剣をもって殺戮《さつりく》し合った。彼らはおのおのの神を創り出して互いに招き合っている。つまり、※[#始め二重括弧、1−2−54]おまえたちの神を崇めないか、そうしなければ、おまえたちもおまえたちの神も死あるのみだぞ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]というのだ。これは世界の終わるまでこのとおりだ。神というものが地上から消え失せてしまった時でも、やはり同じことだ。彼らは偶像の前にでも、ひざまずくだろうから。おまえはこの人間性の根本の秘密を知っていたろう、いや知らないはずはない。ところが、おまえはすべての人間を無条件で自分の前にひざまずかせるため、精霊がおまえにすすめた唯一絶対の旗幟――つまり地上のパンという旗幟――を拒否したのだ、しかも天上のパンの名をもって拒否したではないか。それからさきにおまえはどんなことをしたか、考えてみるがよい。何事によらず、例によって、自由の名をもって行なったではないか! わしがおまえに言っておるとおり、人間という哀れな生き物は、生まれ落ちるとより授けられている自由の賜物を、いちはやく誰かに譲り渡そうとして、その相手を捜し出すことにきゅうきゅうとしていて、この苦しみほど人間にと
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