ヘ、何よりも先にまずこの人をかつぎ出すじゃないか。ときには、アリョーシャ、笑っちゃいけないよ、僕はいつか一年ばかり前に劇詩を一つ作ったんだ。もしも、僕につき合ってもう十分間ほど暇をつぶすことができるなら、一つおまえに話して聞かしてもいいんだけれど」
「兄さんが劇詩を書いたんですって?」
「ううん、どうしてどうして」と、イワンは笑いだした、「今までに、かつて二行と詩なんか書いたことはなかったんだが。その劇詩はただ頭の中で考えて、今もなお覚えているというだけの話だ。しかし、熱心に考えたものだよ。おまえは僕の最初の読者、いやいや、聞き手なんだ。全く作者にとってはたった一人でも聞き手は取り逃がしたくないもんだからな」とイワンは薄ら笑いをもらした。「話そうか、どうしようかな?」
「僕は喜んで聞きますよ」とアリョーシャは言った。
「僕の劇詩は『大審問官』というんだ。ばかばかしい物だけれど、おまえに聞いてもらいたいんだよ」
五 大審問官
「ところで、これには、前置きを省くわけにはいかないんだよ、つまり、文学的序文というやつをな、ふん」とイワンは笑った、「それにしても、たいした作者になったものだ! さて、舞台は十六世紀に起こったことになっているんだが。それはちょうどあの、――もっともこんなことはおまえも学校で習って、ちゃんと知ってる話だが、――詩の中で、天上界の力を地上に引きおろすことが流行した時代なんだ。ダンテのことは言わずもがな。フランスでは裁判所の書記や修院の坊さんが、マドンナや、聖徒や、キリストや、神様御自身までも舞台へ引っぱり出して、いろんな芝居をやらせたものだ。当時はそれがすべて至極単純に取り扱われていたものだ。ユゴオの |Nortre−Dame《ノートル・ダム》 de《ド》 Paris《パリ》 のなかには、ルイ十一世の時代に王子誕生祝賀のため、パリの市会議事堂で 〔Le bon jugement de la tre`s sainte et gracieuse Vierge Marie〕(いとも神聖にして優しき、処女マリアのねんごろなる裁判)という外題《げだい》の教化的な演劇が、人民のために無料で公開されたことが書いてある。この劇では、聖母がみずから舞台に現われて、そのいわゆる bon jugement を宣告することになっているのだ。ロシアでもピョートル大帝
前へ
次へ
全422ページ中366ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング