。のところから狙いを定めた。すると赤ん坊は嬉しそうにきゃっきゃっと笑いながら、ピストルを取ろうと思って、小さな両手を伸ばす、と、いきなりその芸術家は顔のまん中を狙って、ズドンと引き金を引いて、小さな頭をめちゃめちゃに砕いてしまうんだ……いかにも芸術的じゃないか? ついでながら、トルコ人は非常に甘いものが好きだって話だ」
「兄さん、何のためにそんな話をするんです?」と、アリョーシャが尋ねた。
「僕は、もし悪魔というものが存在しないで、人間がそれを創り出すとしたら、きっと人間そっくりの形に悪魔を作っただろうと思うんだがなあ」
「そんなことをいえば、神様だって同じことですよ」
「おまえは『ハムレット』の中のポローニアスみたいに、なかなかうまくことばをそらすね」とイワンが笑いだした、「おまえはうまく僕のことばじりを押えたもんだ。いや結構結構、大いに愉快だよ。しかし、人間が自分の姿や心に似せて創り出したものだったら、さぞかしおまえの神様は立派なもんだろうな。ところで、いまおまえは、何のためにあんな話をもちだしたかって尋ねたんだね? 実はね、僕はある種の事実の愛好家で、同時に収集家なので、新聞や人の話から手当たり次第に、そういう種類の逸話をノートに取って集めているんだ。もうだいぶ立派な収集ができたよ。例のトルコ人ももちろんその収集の中へはいってるんだが、こんなのはみんな外国種だからな。ところが、僕はロシア種もだいぶ集めた。その中には、あのトルコ人よりも一段すぐれたやつさえあるんだ。おまえも知ってるとおり、ロシアではずいぶんよくなぐる。それも多く笞《むち》や棒でなぐる、しかもそこが国民的なんだよ。わが国では耳を釘づけにするなんてことは夢にも考えない。われわれはこれでもヨーロッパ人だけれど、しかし笞とか棒とかいうやつは妙にロシア的なものになってしまって、われわれから奪い去ることができなさそうだ。外国では今はあんまりなぐったりなんかしないようだ。人情が美しくなったのか、それとも人間をなぐってはならぬという法律でもできたのか、その辺はよく知らないけれどね。その代わり外国の連中は別なもので、ロシア人と同様、国粋的なもので埋め合わせをしているよ。それはロシアではとても不可能なほど、国民的なものなんだ。もっともロシアでも――ことに上流社会で宗教運動が始まったころからは、そろそろ移植されかけた
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