《レストラン》を開業することができます。なぜって、僕には特別な料理法の心得がありますが、それはモスクワでも外国人をのけたら誰ひとりできる者はいないんですからね。ところがドミトリイ・フョードロヴィッチが素寒貧《すかんぴん》でありながら、しかも、一流の伯爵の息子に決闘を申しこんだとすれば、その若様は、のこのこ出かけて行くに相違ないんですよ。いったい、あの男のどこが僕より偉いんでしょう? だって僕よりは、比べものにならんほどばかだからですよ。ほんとにどれだけなんの役にも立たないことに金を使い果たしたかわかったものじゃない」
「決闘って、ほんとにおもしろいものでしょうね」といきなりマリヤが言った。
「どうして」
「とても恐ろしくって、勇ましいからよ。とりわけ若い将校なんかが、どこかの女の人のためにピストルを持って射ちあうなんて、ほんとにたまらないわ。まるで絵のようね。ああ、もしも、娘にも見せてもらえるものだったら、わたしどんなにそれが見たいでしょう」
「それはね、自分のほうが狙う時はいいでしょうが、こっちの顔のまん中を狙われる時には、それこそひどく気持の悪い話でさあね。その場から逃げ出すくらいが落ちですよ、マリヤさん」
「ほんとに、あなたも逃げ出しなさるの?」
 しかるに、スメルジャコフは返事をするにも及ばぬというように、しばらく黙っていたが、やがてまたギターが鳴りだして、例の裏声が最後の一連を歌い始めた。

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どんなに骨が折れようと
遠くへ行って住みましょう
楽しい暮らしをしたいもの
花の都に暮らしたい
もうもう悲しむこともない
さらに悲しむこともない
さらに悲しむ気もないよ
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 おりしも思いがけないことが起こった。アリョーシャがだしぬけにくさみをしたのである。ベンチの方の人声はぴたりとやんでしまった。アリョーシャは立ち上がって、その方へ歩み寄った。男ははたしてスメルジャコフであった。彼は晴れ着を着飾り、頭にはポマードをつけて、すこしく髪をうねらし、足にはエナメルの靴をはいていた。ギターはベンチの上に置いてあった。女はやはりこの家の娘マリヤ・コンドゥラーチェヴナで、二アルシンほどもある裳裾のついた淡い水色の着物を着ていた。まだ若くて、顔立ちのいい娘であるが、惜しいことには顔がすこし丸すぎるうえに、ひどい雀斑《そばかす》であっ
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