せんよ、マリヤさん」
「何事によらず、どうしてあなたはそんなに賢くていらっしゃるんでしょうね? ほんとにどうして何もかもよく御存じでいらっしゃるんでしょう?」女の声はいよいよ甘ったれた調子になってきた。
「小さい時分からあんな貧乏くじさえ引き当てなかったら、僕はまだまだいろんなことができたはずなんですよ。もっともっといろんなことを知っていたはずですよ! 僕のことをスメルジャシチャヤの腹から生まれた父なし児だから根性が曲がった悪党だなんかって言うやつには決闘を申しこんで、ピストルでどんとやっつけてやりたいですよ。モスクワでも面と向かって、そんな風に当てこすりを言われたことがありました。それもグリゴリイ・ワシーリエヴィッチのおかげで、この町から出て行った噂なんですよ。グリゴリイ・ワシーリエヴィッチは僕が自分の誕生をのろうからといって『おまえはあの女の子宮を破ったんだ』なんてとがめるんです。まあ、子宮は子宮でいいとして、僕はこんな世の中へなんか出て来ずに済むものなら、まだ胎《はら》の中にいるうちに自殺してしまいたかったくらいですよ。よく市場なんかでぶしつけ千万にも、あの女は雀の巣のような頭をして歩いていただの、背が二アルシンとちょっぴり[#「ちょっぴり」に傍点]しかなかったなんかと言うし、あなたのお母さんなぞも、やっぱりずけずけと話されるじゃありませんか。いったい何のためにちょっぴり[#「ちょっぴり」に傍点]なんて言うのです? 普通に話すとおり、少し[#「少し」に傍点]と言ったらよさそうなもんじゃありませんか。きっと哀れっぽく言いたいからでしょうが、それはいわば百姓の涙です、百姓の感情です。いったいロシアの百姓が教育のある人間に対して何か感情を持つことができますか? やつらは無教育なために感情を持つことができないんです。僕はまだほんの子供の時分から、この『ちょっぴり』と言うのを聞くと、まるで壁にでもがんとぶつかったような気がしたものです。ロシア全体を僕は憎みますよ、マリヤ・コンドゥラーチェヴナさん」
「でも、あなたが陸軍の見習士官か、若い驃騎兵《ひょうきへい》ででもあって御覧なさい、そんな言い方をなさりはしないから。きっとサーベルを抜いてロシア全体をお守りなさることよ」
「僕はね、マリヤ・コンドゥラーチェヴナさん、陸軍の驃騎兵になんぞなりたいと思わないばかりか、あべこべに
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