わずに、じっと隠れたまま、晩までも四阿《あずまや》で待っていることだ。兄が以前どおりグルーシェンカのやって来るのを見張っているとすれば、いずれあの四阿に姿を現わすということは大いにありうべきことだ……』とはいうものの、アリョーシャはそれほど詳しく自分の計画を何かと考えることもなく、たとい今日じゅうに修道院には帰れなくても構わぬから、さっそく実行にとりかかるうと決心したのである……。
 すべては何の故障もなく好都合にいった。彼は昨日とほとんど同じ場所の垣根を越して、こっそり四阿までたどりついた。彼が誰の眼にも触れたくないと思ったのは、家主の老婆にしろ、フォマにしろ(もしもこの男が居合わせたなら)、あるいは兄の味方をして、その言いつけを聞くかもしれない、そうすれば自分を庭へ入れてくれないか、でなければ、兄を捜して尋ね回っていることをすぐに兄に知らされるというおそれがあるからであった。四阿には誰もいなかった。アリョーシャは昨日と同じ席に腰をおろして待ちにかかった。あらためて四阿を見回したが、なぜかしら昨日よりはずっと古ぼけたものに見える。おそろしくぼろ家のように思われた。もっとも、天気は昨日と同じように、澄み渡っていた。緑色のテーブルの上には、前の日に杯からこぼれたコニャクの跡らしい、丸い形がついていた。いつも人を待つ退屈なときに経験する、なんの役にも立たない、たとえば自分は今ここへはいって来て、なぜほかの場所へ坐らずに昨日とちょうど同じ席へ腰をおろしたのだろうなどといったようなくだらない考えが、そっと彼の頭に忍びこむのである。ついに非常にわびしい気持になってきた。それは不安な未知に招来される一種のわびしさであった。わずかに彼が座についてから十五分とたたないうちに、不意にどこか非常に近いところで、ギターを弾《ひ》く音が聞こえてきた。前からいたのか、それともたった今、来たばかりなのか、とにかくどこか二十歩以上とは隔たっていないはずの灌木《かんぼく》のかげに誰かがいる。アリョーシャはふと思い出した――きのう兄と別れて四阿《あずまや》を出るとき、左手の前にあたる灌木のあいだに、低い緑色の古びた腰掛けがあるのを見た、といおうか、ちらりとそれが眼にはいったのであった。きっとそのベンチに今坐ったに違いない。だがいったいそれは誰だろう? と、不意に一人の男らしい声が、自分でギターで伴奏
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