するのを忘れていましたが、毎晩毎晩、右半身が全体にずきずき痛んで、それはそれは苦しむんでございますよ、まるで嘘のような話ですけれど、あの神様のお使いはわたくしどもに心配をかけまいと、一生懸命に我慢をして、他の者が眼をさまさないようにと、うめき声さえ立てないんでございますよ。わたくしどもは食べ物も手当たり次第に、なんでもかまわず口に入れるんでございますが、その中でも、あれはいちばん悪い、犬にしかやれないようなところを取るじゃありませんか。『こんなよいところをいただくと罰があたります、それではみんなの物を取りあげることになります。わたくしはやっかい者なんですから』と、まあ、こんなようなことを、あれの天使のような眼つきが、言いたそうにしているんですよ。わたくしどもが、あれの世話をしてやるのが、あれにはつらいらしいんでございますよ。
『わたくしはそんなことをしていただく値打ちはありません、わたくしは何の役にも立たない、つまらないかたわじゃありませんか』――ところが、どうしてどうして、役に立たないどころじゃございません。あれは天使のような優しい心で、わたくしどものことを神様に祈ってくれるのでございますから。あれがいなかったら、あれの優しいことばがなかったら、それこそ、わたくしどもの家は地獄も同然なのでございますよ。あれはワルワーラの心までも、慰めてくれました。しかし、ワルワーラのことも、やはり悪く思わないでくださいまし。あれもやはり天使ですけれど、ただはずかしめられたる天使なんでございますからね。あれがここへまいりましたのは夏のことでしたが、そのころは十六ルーブルの金を持っておりました。それは子供に稽古《けいこ》などしてやって、もうけた金なので、九月――といって、つまり今ごろはペテルブルグへ帰るつもりで、それを旅費に取っておいたんでございます。ところが、わたくしどもがその金を取って使ってしまいましたので、あれはもう帰ろうにも金がない、というような始末なのでございます。それにまだ帰れもしないと申すわけは、わたくしどものために懲役人のような働きをしているからでございます。なにしろ、やくざ馬に馬具や鞍《くら》をつけて、こき使うようなありさまなんでございますからね。皆の者の世話をする、洗濯をする、雑巾《ぞうきん》がけをする、床を掃《は》く、母ちゃんを床の上に寝かしてやる――ところが、
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