って、アリョーシャの手を取って、部屋からいきなり、通りへ引っ張り出した。

   七 清らかなる外気のうちに

「空気が澄んでおりますな。わたしのお屋敷の中は、実際、いろんな意味で申しましても、あんまりせいせいしておりませんで。まあ、ゆっくり、まいりましょう。わたくしはおもしろいことをお聞かせしたいと思いましてな」
「実は僕も、たいへんな問題があるんですけれど……」とアリョーシャが言った、「さて、どういう風に切り出していいか迷っているんです」
「あなたがわたくしに用件のあることを、知らずにいるはずはございません。用がなかったら、けっして、わたくしのところなぞ、のぞいて御覧になることもなかったはずですからね。それとも実際に、子供のことを言いつけにいらっしただけなんでございましょうか? それはどうも受けとれませんでしてね。それはそうと、ついでに子供のことをちょっとお話しいたしましょう。さきほどあの席では、すっかりお話ができなかったものですから、今ここであのときの様子を詳しく申し上げることにしましょう。御覧なさいまし、この糸瓜《へちま》もつい一週間前までは、もう少し厚かったのでございますよ、――自分の鬚のことを申していますので。わたくしの鬚は糸瓜というあだ名を取っているんでございますが、これは主として、小学校の生徒の言うことなんでございますよ。ところで、その、あなたのお兄さんのドミトリイさんが、あのとき、わたくしの鬚を引っぱったんでございますよ。何というわけもなしに、ただお兄さんが暴れだしたところへ、おり悪しくわたくしが、行き合わせたものですから。居酒屋から広場へ引きずり出されたときに、ちょうどそこへ生徒たちが学校から出て来ましてね。その中にイリューシャも混っていたわけなんです。わたくしがそんな目にあってるのを見ると、倅《せがれ》はいきなり飛びかかって来て、『父ちゃん! 父ちゃん!』とわめくんでしてね! そしてわたくしをつかまえて、抱きしめながら、一生懸命に引き放そうとして、敵に向かって『放してください、放してよ、これは僕の父ちゃんなんだから、ねえ、堪忍してやってちょうだいよ!』全くそう言ってどなるじゃありませんか、『堪忍してやってちょうだい』とわめいたのです。それから、小さな手でお兄さんにとびついて、その手に、え、その手に接吻するじゃございませんか、……わたくしは、その
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