そうな様子をして、彼の顔を見つめた。『してみると、兄さんを好いて、味方になっているんだ』とアリョーシャは考えた、『それはまあ、結構なことだ』
 ついに彼は湖水通りにあるカルムィコワの家を見つけた。一方に傾いた古い小さな家で、窓は往来へ向いてたった三つしかなかった。泥だらけの中庭があって、そのまん中に、牝牛が一匹、ぽっつり寂しそうに立っていた。中庭からの入り口は玄関に通じていた。玄関の左側には女主人と娘が暮らしていたが、娘といっても、もうお婆さんで、しかも二人とも聾《つんぼ》らしかった。彼が二等大尉のことを幾度も幾度もくり返して尋ねたとき、一人のほうがやっと下宿人のことを尋ねているのだなと悟って、まるで物置小屋のようなものの戸口を、玄関ごしに指さして見せた。全く二等大尉の住まいはなんのことはない、純然たる物置小屋であった。アリョーシャは鉄のハンドルに手をかけて、戸をあけようとしたが、ふっと、戸の向こうが妙にひっそりしているのに気がついた。彼はカテリーナのことばによって、二等大尉に家族があるということを知ってたので、『みんなそろって寝ているのかしら、それとも僕の来たことを聞きつけて、戸のあくのを待っているのかしら。しかし、まあ、ドアをたたいてみたほうがいいだろう』と考えて、彼は戸をたたいた。すると、返事の声が聞こえたが、それもすぐではなしに、十秒くらいたったろうかと思われるころであった。
「いったい誰?」と腹立たしそうな大声で誰かがどなった。
 で、アリョーシャはドアをあけて閾《しきい》をまたいだ。彼のはいった小屋はかなりに広かったが、ごたごたした道具や家族の人たちで、足の踏み場もないくらいであった。左手には大きなロシア風の暖炉《だんろ》があった。暖炉から左側の窓にかけて、部屋いっぱいに繩《なわ》が渡されて、色とりどりなぼろが下がっていた。両側の壁のそばには、右にも左にも、寝台が、一つずつ据えてあって、編み物の夜着がかかっていた。左側の寝台には、大きいのから順々に、更紗《サラサ》の枕が四つ並べられて、小山のように積み重なっている。右側のもう一つの寝台には非常に小さな枕が、たった一つ見えるだけであった。それから手前のほうの片隅には、はすかいに繩を引いた上にカーテンとも敷布ともつかないものをつるして、少しばかり仕切りをしたところがあった。この仕切りの向こうにもベッドがあった
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