った。彼は二人の兄を両方とも愛してはいるが、この恐ろしい矛盾の中にあって、一人一人に何を望んでやったらいいのであろう? この迷宮にはいったら、誰しも途方に暮れてしまうであろう。ところが、アリョーシャの心は暗々裡に葬られることをいさぎよしとしない。なぜといって、彼の愛というものが実行的な性質のものだからである。消極的な愛は、彼には不可能なことであった。ひとたび愛したとなると、すぐに救済に取りかかるのである。このためには確固たる目的を立てて、それぞれの人にどんなことが望ましく、また必要であるかということを、正確に知らなければならぬ。こうして目的の正確なことを確かめてこそ、はじめて自然なやり方で、おのおのに助力を与えることができる。ところが、今は何事も正確な目的の代わりに、曖昧《あいまい》さと混乱とに満たされているのである。たった今、『破裂』ということばが出たが、しかしこの『破裂』ということばをなんと解釈したらいいのか? このあらゆるものが混沌《こんとん》としている中では、最初の一句からして、もう彼にはのみこめないのである。
カテリーナはアリョーシャの姿を見るやいなや、席を立ってもう帰りじたくをしているイワンに向かって、早口に嬉しそうに話しかけた。
「ちょっと! ちょっと待ってください? わたしは自分が心から信用しているこのおかたの御意見が聞きたいのです。奥さん、あなたも行かないでいてください」と彼女はホフラーコワ夫人に向かって、言うのであった。彼女はアリョーシャを自分のそばへ坐らせた。夫人はその向かい側のイワンと並んで腰をおろした。
「ここにいらっしゃる皆さんは、世界じゅうにまたとないわたしの親しいお友だちばかりですわ、わたしの大切なお友だちばかりです」彼女は熱しながら、こう言った。が、その声はいいしれぬ苦しみの涙に震えていた。アリョーシャの心は、またもや彼女のほうへ引き寄せられた。「アレクセイさん、あなたは昨日のあの……恐ろしい出来事を御自分で御覧になりましたわね。わたしがどんな様子であったかということも、よく御存じでいらっしゃいますわね。イワンさん、あなたは御覧になりませんでしたけれど、あのかたは御覧になったのですよ。昨日このおかたがわたしのことを、なんとお思いになったか存じませんけれど、たった一つよくわかっていることがございますの、それはね、もしも今日、いますぐ
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