「と思ったらしく、ついでにちょっと応戦の身構えをした。しかし、アリョーシャはふり返って彼の方を見ただけで、そのまま向こうへ行きかかった。が、三歩とも踏み出さないうちに、少年の役げた石が彼の背中を強く打った。しかも、それは少年のポケットにある石の中で、最も大きなものであった。
「君はうしろからそんなことをするの? あっちにいた子供たちが、君はいつも不意打ちばかりすると言ったのは本当なんだね」とアリョーシャはふり返って、言った。が、少年は死にものぐるいになって、またしても石を投げつけた。しかも、今度は顔のまん中を狙ったのである。ところが、アリョーシャがうまく身をかわしたので、石は彼の肘《ひじ》に当たった。
「よく君は恥ずかしくないねえ! 君に僕が何をしたというんだろう?」と彼は叫んだ。
少年は今度こそもうアリョーシャが、きっと自分に飛びかかってくるに相違ないと思って、黙々と、いどむような風で、そればかりを待ち構えていた。が、彼が今度もかかってこないのを見ると、まるで小さな野獣のように、すっかり夢中になってしまって、いきなりおどり上がって、自分のほうからアリョーシャに飛びかかった。こちらが身をかわす暇もないうちに、両手で彼の左手を握りしめて、首をかがめたと思うと、いきなりぎゅっと中指にかみついて、しっかり食いついたまま、十秒間ほど放そうともしなかった。アリョーシャは精いっぱい自分の指をもぎとろうとしながら、痛みに耐えかねて叫び声をあげた。少年はついに、指を放して後ろへ飛びのくと、以前と同じ隔たりをおいて突っ立った。指は爪のすぐそばを深さ骨に達するほど歯を立てられて、血がたらたらと流れてきた。アリョーシャはハンカチを取り出して、傷のところをしっかりと巻きつけた。そのあいだ、ほとんどまる一分間ほどかかったが、少年はじっと立ったまま待ち受けていた。ついにアリョーシャはその方へおだやかな視線を向けた。
「さあ、これでいい」と彼は言った、「ね、御覧、ずいぶんひどくかんだじゃないか。でも、これで気がすんだろう、ね? さあ、今度こそ教えてもらおう、僕がいったい、何をしたというの?」
少年はきっとして彼の顔を見つめた。
「僕はまるで君を知らないし、会ったのも今がはじめてなのに」アリョーシャはやはり落ちついた調子でこう言った、「しかし、僕が来もしないってはずはないだろう。君がなんのわけ
前へ
次へ
全422ページ中260ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング