ワで大威張りでいた婦人が急に調子を低くして、それ以来、とんと頭もようあげなくなったのさ、じゃ、その人がカーチャを止めようとしても、耳をかそうともしなかったわけだね、あの女の肚では、『何だってわたしに征服できる、何もかもわたしの勢力範囲にあるのだから、もしその気にさえなれば、グルーシェンカだって丸めこんで見せる』ってわけさ、だから自分でうぬぼれて、空威張りをやってのけたまでだもの、誰を恨むこともできないじゃないか? で、あの女がわざと、進んでグルーシェンカの手を接吻したのは、何かずるい目算があってだと思うかい? それは違うよ、あの女は全くグルーシェンカに惚れこんだのだよ、いや、グルーシェンカにではない、自分の空想に惚れこんだのだ、自分の夢に惚れこんだのだ、なぜって、それはあの女の空想であり、あの女の夢であったのだもの、惚れこまずにはいられないさ! だが、おいアリョーシャ、いったいおまえどうしてあの連中のところから逃げ出して来たんだい? 法衣の裾をからげて駆け出して来たのかい? わ、は、は!」
「兄さん、あなたは、あの日のことをグルーシェンカに話したために、どんなにカテリーナ・イワーノヴナを侮辱したことになるか、そのことに少しも注意を払わなかったようですね。たった今グルーシェンカは、あの人に面と向かって、『あなただって、立派な器量を売りに、こっそりと色男のところへ忍んでいらしたでしょう?』って言ったんですよ、ねえ、兄さん、これよりひどい侮辱がまたとあるものですか!」アリョーシャが何より心を痛めたのは、兄がまるでカテリーナ・イワーノヴナの屈辱を、喜んでいるように思われることであった。もちろんそんなことのあろうはずはなかったけれど。
「そうか!」と、ドミトリイ・パーヴロヴィッチは急におそろしく顔をしかめて、手の平で額をぴしゃりとたたいた。彼は先刻アリョーシャから、この侮辱のことも、『あなたの兄さんは悪党です!』とカテリーナ・イワーノヴナがわめいた話も、いっしょにすっかり聞いたくせに、やっと今それに気がついたのである。
「そうだ、実際、おれはカーチャの言う『あの恐ろしい日』の出来事をグルーシェンカに話したかもしれないよ、ああ、そうだ、話した話した、やっと思い出したよ! そうそう、モークロエ村で話したんだっけ、なんでもあのとき、おれはぐでんぐでんに酔っ払っていて、ジプシイの女た
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