マたいてやったのに、ひっぱたいて!」
 彼女はアリョーシャの前で、自分を押えつけることができなかった。あるいは抑制しようとしなかったのかもしれない。
「あんなやつは笞《むち》でひっぱたいてやってもあきたりないわ、処刑台《だい》へのせて、首切り役を使って、大ぜいの前で……!」
 アリョーシャは扉のほうへ後ずさりした。
「だけど、まあ!」と突然、彼女は手を打って叫んだ、「あの人が! ほんとにあの人がそれほど恥知らずな、不人情な人間になりさがったものだろうか? だって、あの人は、あの恐ろしい、永久にのろってものろい足りない、あの日の出来事を話して聞かせたんだもの! 『お嬢様、あなただってその器量を売りにいらしたじゃあありませんか』だって! あの女は知ってるんだわ! アレクセイ・フョードロヴィッチ、あなたの兄さんは悪党ですよ」
 アリョーシャは何か言いたかったが、言うべきことばが見いだせなかった。彼の胸は痛いほど締めつけられた。
「帰ってください、アレクセイ・フョードロヴィッチ! わたしは恥ずかしい、わたしは恐ろしい! あす……後生ですから、いらしてちょうだいね、どうぞわたしを悪く思わないでね、許してちょうだい、わたしはまだ、自分で自分をどうしていいのかわからないのですから!」
 アリョーシャはよろめくようにしながら往来へ出た。彼女と同じように彼も泣きだしたくなった。と、不意に後ろから女中が追いかけて来た。
「お嬢様がこれをお渡しするのをお忘れになりましたの、ホフラーコワさまからおことづけの手紙でございますの、もうお昼御飯の時からおあずかりしてありましたので」
 アリョーシャはばら色の小さい封筒を機械的に受け取ると、ほとんど無意識にポケットへ押しこんだ。

   一一 さらに一つの滅びたる名誉

 町から修道院までは一|露里《エルスター》とほんの少ししかなかった。この時刻では人通りも途絶えた道を、アリョーシャは急ぎ足に歩いて行った。もうほとんど後になって、三十歩前方の物のあや目もわからなかった。ちょうど道の中ほどに四つ辻があって、その四つ辻のひともと柳の下に何か人影らしいものがちらついた。アリョーシャが四つ辻へかかると同時に、その人影がふっとその場を離れて、彼の方へ飛びかかって来た。そしてたけだけしい声でわめいた、「財布か、命か!」
「あ、あなたはミーチャ兄さんですね!」ひ
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