オそうな顔の表情や、おだやかな、まるで嬰児《えいじ》に見られるような幸福そうな眼の輝きに対称して、ほとんどあり得べからざる不合理なもののように感ぜられた。カテリーナ・イワーノヴナはすぐさま彼女をアリョーシャと向き合っている安楽椅子にかけさせて、そのえみを含んだ唇を、幾たびも、夢中になって接吻するのであった。
「アレクセイ・フョードロヴィッチ、わたしたちははじめて会ったんですのよ」と彼女は有頂天になって言った、「わたし、このかたに会って、このかたのことが知りたかったものですから、こちらから出向こうと思ったんですけれど、ちょっとお頼みしてみたら、このかたのほうから、こちらへ来てくだすったんですのよ。わたし、このかたと御いっしょだったら、どんなことでも、すっかり、何もかもすっかり解決がつくだろうと思いましたの。そんな風に虫が知らせたんですの……。わたしがこのことを決心しましたとき、家の者はそんなことをしないようにって、懇々と止めましたの、ですけれど、わたしは、ちゃんと結果を予想していたのです。そして、やっぱり間違いではございませんでしたわ。グルーシェンカはわたしに何もかも打ち明けて、御自分の考えも残らず聞かせてくだすったんですのよ、このかたは、まるで天使のように、ここへ飛んで来て、平和と喜びを持って来てくだすったんですのよ……」
「あたしのような者でも、あなたはおさげすみになりませんでした。ほんとにお優しい、立派なお嬢様でいらっしゃいますわ」グルーシェンカは、やはり例の愛嬌《あいきょう》のある、嬉しそうなえみをたたえながら、歌でもうたうようにことばを引っぱった。
「まあとんでもない、そんなことをおっしゃるなんて、魅力のある、魔法使いのようなかたのくせに! あなたのようなかたをさげすむなんて! さあ、もう一度わたし、あなたの下唇を接吻しますわ、あなたの下唇ははれたようになってますけど、もっともっとはれあがるほど接吻してあげてよ。そうら、もう一度……もう一度……ほらね、アレクセイ・フョードロヴィッチさん、この笑い顔を御覧なさいな、ほんとにこんな天使のような顔を見ていると、心が晴れ晴れして来ますわね……」アリョーシャは顔を赤らめて、眼に見えぬくらいかすかに身震いをしていた。
「まあ、あなたはこんなに可愛がってくださいますけど、ひょっとしたら、あたし、まるっきりこんなにしていただ
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