ヒ、そのとおりの言い回しで?」
「そうですよ」
「もしかしたら、ひょいと何の気なしにそんなことを言ったのかもしれませんわね、間違って、言わなければならぬことばでなしに、ひょんなことが口から出たのかもしれませんのね?」
「いいえ、兄はこの『よろしく』ということばを、ぜひお伝えしてくれって言いつけたのです、忘れないようにお伝えしてくれって、三度も念を押したのです」
 カテリーナ・イワーノヴナはかっと赤くなった。
「アレクセイ・フョードロヴィッチ、どうぞわたしを助けてください。今こそ、ほんとにあなたのお力添えが必要なのです。わたし、自分の思っていることを申してみますから、あなたはそれについて、わたしの考えが正しいかどうか、それだけをおっしゃってくださいませんか、ね。ようござんすか。もしあの人が何気なしに、よろしく言ってくれって、あなたに言いつけたのでしたら、――つまり特別このことばに力を入れて、このことばをぜひ伝えるように念を押さなかったとしますと、もうそれでおしまいなんです……何もかもがおしまいなのです!……けれどあの人が特別このことばに力を入れて、ことさらその『よろしく』を忘れないで、わたしに伝えるように念を押したのでしたら、きっとあの人は興奮していらしたということになりますわ、もしかしたら、前後を忘却していらしたのかもしれませんわね。きっと、決心はしながらも、自分で自分の決心を恐れていらっしゃるのです! しっかりした確かな足どりでわたしから離れて行ったのではなくって、急な坂を駆け下りたのです。そのことばに力を入れたのは、ただの空威張りだったということにはならないでしょうか……」
「そうですよ、そうですよ!」とアリョーシャは熱心に相づちを打った。「僕自身にも今はそう思われるのです」
「で、もしそうなのでしたら、あの人はまだ滅びてはいません! ただ絶望しているだけですから、わたしはあの人を救うことができます。ね、それはそうと、あの人は何かお金のことを、三千ルーブルのお金のことをあなたにお話ししませんでして?」
「話したどころじゃありませんよ、きっとそのことをいちばんひどく兄は苦に病んでいるのです。兄はもうこうなっては、名誉も何も失ってしまったのだから、どちらにしたって同じことだと言っていました」とアリョーシャは躍起になって叫んだ。そして彼は、自分の心に一縷《いちる》の望
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