きたりないぞ」
「神が考え出されなかったら、文明というものも、てんでなかったでしょう」
「なかったかもしれんというのか? 神がなかったら?」
「そうです、それにコニャクも無かったでしょうよ、が、それはとにかく、そろそろコニャクを取り上げなくてはなりませんね」
「待て、待て、待ってくれ、な、もう一杯だけだ、わしはアリョーシャを侮辱したて、おまえは怒りゃせんだろうな、アレクセイ? わしの可愛い可愛いアレクセイチックや!」
「いいえ、怒ってなんかいませんよ、僕はお父さんのお肚《なか》の中を知っています、お父さんは頭より心のほうがよっぽどいいのです」
「わしの頭よりも心のほうがいいだって? ああ、しかもそう言ってくれるのが誰だろう? イワン、おまえもアリョーシカが好きかい?」
「好きです」
「好いてやってくれよ、(フョードル・パーヴロヴィッチはもう、ひどく酔いが回ってきたのである)なあ、アリョーシャ、わしは今日おまえの長老に無礼なことをしたよ、だが、わしは気が立っていたのだよ、しかし、あの長老には、なかなかとんちがあるなあ、おまえはどう思う、イワン?」
「あるかもしれませんね」
「あるとも、あるとも、〔Il y a du Piron la` dedans〕(あいつの中にはピロンの面影がある)あれはエズイタだよ、ただしロシア式のさ、高尚な人間ってものはみんなそうだが、あの人も聖人様のまねなんかして……心にもない芝居を打たにゃならんので、肚《はら》の中ではじりじりしているのだよ」
「でも、あの人は神を信じていられますよ」
「なんの、これっぽっちも信じてるものか、おまえは知らずにいたのかい? あの人は自分の口からみんなにそう言っとるじゃないか、いやみんなといっても、あの人のとこへたずねて来るお利口な連中にだけだけれど、県知事のシュルツには明からさまに、『Credo(信じてはいる)といっても、何を信じておるのか、わかりません』と言ったものだよ」
「まさか?」
「いや、全くだよ、しかし、わしはあの人を尊敬はしている、あの人にはどこかメフィストフェレス式なところ、というより、むしろ『現代の英雄』に出て来る……アルベニンだったかな、……そんな風なところがあるよ、つまりなんだよ、あれは助平爺《すけべいじじい》なのさ、あの人の助平なことといったら、ひょっとわしの娘か女房が、あの人のところへ
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