の美談は、ちょうどその日届いた新聞にも掲載されていた。この話をグリゴリイが食事のあいだにもちだしたのである。フョードル・パーヴロヴィッチは昔から食後のデザートに、たとえグリゴリイを相手にしてでも、何かおもしろい話をして、わっとひと笑いするのが好きであった。このときも気軽で、愉快な、のんびりした気分になっていた。で、コニャクを傾けながらその一部始終を聞き終わると、そういう兵士はすぐにも聖徒の中へ祭りこまねばならぬ。そして剥《は》がれた皮はどこかのお寺へ納めたがよい、『それこそたいへんな参詣人で、さぞお賽銭もあがることだろうぜ』と言った。グリゴリイはフョードル・パーヴロヴィッチが少しも身にしみて感じないばかりか、いつもの癖で、罰当たりなことを言いだしたのを見て顔をしかめた。ちょうどその時、扉のきわに立っていたスメルジャコフが、不意ににやりと笑った。スメルジャコフはこれまでもよく食事のしまいごろに食卓のそばへ出ることを許されていたが、イワン・フョードロヴィッチがこの町へやって来てからというものは、ほとんど食事のたんびに顔を出すようになった。
「どうしたんだ、これ?」と、その薄笑いを目ざとく見つけると同時に、それがグリゴリイに向けられたものだと悟りながら、フョードル・パーヴロヴィッチが聞いてみた。
「今の話でございますが」と、スメルジャコフは、突然大きな声で思いがけないことを言いだした。
「その感心な兵士のしたことはなるほど偉いには違いありませんが、そんな危急な場合にはその兵士がキリストの御名と自分の洗礼を否定したからといって、いっこう罪にはならないだろうと思います。そうしますれば、このさきいろいろ良い仕事をするために、自分の命を全うすることができますし、またその良い仕事で長の年月のあいだには、自分の無分別な行為も償うことができるではありませんか」
「どうしてそれが罪にならないのか? ばかなことを言え、そんな口をきくとまっすぐに地獄へ突き落とされて、羊肉のように焙《あぶ》られるぞ」フョードル・パーヴロヴィッチが口を入れた。ちょうどこの時、そこへアリョーシャがはいって来たのである。フョードル・パーヴロヴィッチは、前にも述べたように、アリョーシャを見てむしょうに喜んだのである。
「おまえの畑だ!」と彼はアリョーシャを席につかせながら、忍び笑いをしたものである。
「羊肉のことです
前へ
次へ
全422ページ中184ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング