。フョードル・パーヴロヴィッチはまた少し別な見地から彼を眺めるようになった。スメルジャコフの癲癇の発作がますます烈しくなってきて、そういう日には食事の調理をマルファ・イグナーチエヴナが代わってしたが、それがフョードル・パーヴロヴィッチにはどうにも我慢がならなかったのである。
「どうしておまえの発作はこうだんだん度重なってきたのだろうな?」彼は新しい料理人の顔を流し目に見やりながら、こう言った。「おまえ、嫁をもらったらどうだな。なんなら世話してやるが」
 しかし、スメルジャコフはこのことばを聞くと、ただ腹が立ってまっさおな顔をしただけで、返事ひとつしなかった。でフョードル・パーヴロヴィッチも手を一つ振っておいて、その場をはずしてしまった。しかし何よりも重大な点は、彼がこの青年の正直さを絶対に信用して、相手がけっして物を取ったり盗んだりしないと信じきっていることであった。ある時、フョードル・パーヴロヴィッチは酔っ払っていたために受け取ったばかりの虹幣を三枚自宅の庭のぬかるみへ落としたことがある。あくる日になってはじめて気がついて、あわててポケットの中を捜しにかかったが、ふと見れば、虹幣は三枚ともちゃんとテーブルの上に載っている。いったいどこから出て来たんだ? スメルジャコフが拾って、もう前の日からそこへ持って来てあったのである。「いやどうも、おまえみたいな男は見たことがないぞ」フョードル・パーヴロヴィッチはそう言ってそのとき、彼に十ルーブルくれてやった。ここでつけ加えておかねばならぬのは、フョードル・パーヴロヴィッチは単に彼の正直さを信じていたばかりでなく、なんとはなしにこの青年が好もしかったのである。そのくせこの若者のほうは彼に対しても、赤の他人に対すると同様、白眼を向けて、いつもむっつりとしていた。口をきくこともまれであった。こんな場合、誰かが彼の顔を眺めながら、いったいこの若者は何に興味をいだいているのか、また心の中で何を一番に考えているのか、そんなことを知りたいと思っても、相手の様子を見ただけでは、とてもそれを判断することができなかった。ところでまた、彼はどうかすると、家の中でも、庭でも、また往来のまん中でも、ふと立ち止まって、何か考えこみながら、ものの十分間もたたずんでいることがよくあった。骨相学者がもしこのときの彼の顔をよく観察したならば、そこには思考もなけ
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