出た甘いものを届けてやったりしたこともあったが、なんだか無関心な眼で子供を眺めていた。ところが病気の話を聞くと共に、急にこの子供のことを心配しだして、医者を迎えて治療にかかったけれど、治療の見込みはないということがわかった。発作は一月に平均一度ぐらい襲ってきたが、その期間はさまざまであった。また発作の程度もまちまちで、ときには軽く、ときには非常に激烈であった。フョードル・パーヴロヴィッチはグリゴリイに向かって、子供に体刑を加えることを厳しく禁じた。そして子供に上の自分の部屋へ出入りすることを許した。また、どんなことにもせよ、物を教えることも当分のあいだ差し留めた。ところが、ある時、子供はもう十五になっていたが、フョードル・パーヴロヴィッチは彼が書棚の辺をうろつき回って、ガラス戸ごしに本の標題を読んでいる姿を見た。フョードル・パーヴロヴィッチのところにはかなりたくさん、百冊あまりも書物があったけれど、彼が書物を読んでいるのを見た者は一人もなかった。彼はさっそく戸棚の鍵をスメルジャコフに渡した。「さあ、読め、読め、庭をうろつき回っているより、図書係りにでもなったほうがましだろう。坐って読むがいい。まあ、こんなものでも読んでみろ」そう言ってフョードル・パーヴロヴィッチは『ディカンカ近郷夜話』を抜き出して与えた。
 子供は読みにかかったが、ひどく不満らしい様子で、にこりともしないばかりか、読み終わった時には、かえって顔をしかめていたくらいである。
「どうだい? おかしくないかい?」と、フョードル・パーヴロヴィッチが聞いた。
 スメルジャコフは黙りこんでいた。
「返事をしろ、ばかめ」
「嘘ぱちばかり書いてありますね」とスメルジャコフはにやにやしながら曖昧《あいまい》な返事をした。
「ふん、勝手にしろ、この下郎根性め。まあ待て、これを貸してやろう、スマラグドフの万国史だ。これならば本当のことばかり書いてあるぞ、読んでみろ」
 けれどスメルジャコフはそのスマラグドブも十ページとは読まなかった。まるっきり退屈なものに思われたのである。こんな風で書棚はまたもとのように閉じられてしまった。間もなくマルファとグリゴリイは、スメルジャコフが妙にだんだん気むずかしくなったことを、フョードル・パーヴロヴィッチに報告した。というのは、スープをすすりにかかっても、匙《さじ》を握ったまましきりとスー
前へ 次へ
全422ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング