観察したがね。ところでおれはだしぬけに四千五百ルーブルの金を郵便で受け取ったんだが、もちろんどうしたことかと思って、唖《おし》のようにびっくり仰天したものだよ。三月するとかねて約束の手紙も届いた。それは今でもここに持っている。おれはいつもこれを肌身につけていて死んでも離さないよ、――なんなら見せてやろうか? いや、ぜひ読んでくれ。結婚の申しこみなんだ。自分から申しこんで来たんだよ。
『わたしは気ちがいのように恋しております。あなたがわたしを愛してくださらなくてもかまいません。どちらにしても、どうぞわたしの良人になってください。でも、お恐れになることはいりません。どんなことをなさいましてもわたしはあなたの邪魔だてをするようなことはいたしません。わたしはあなたの道具になります、あなたの足に踏まれる毛氈《もうせん》になります……。わたしは永久にあなたを愛しとうございます、あなたをあなた御自身からお救いしとうございます……』アリョーシャ、おれはこの数行の文句を、自分の陋劣なことばと陋劣な調子で語り伝える資格がないよ、おれのいつもの陋劣な調子は自分でどうしてもなおすことができないのだ! この手紙は今日になってもなおおれの胸を突き刺すのだ! おまえは今おれが気楽だとでも思うかい。今日おれが気楽にしているとでも思うのかい? その時おれはすぐに返事を書いた(おれはどうしても自分でモスクワへ出かけるわけにはいかなかったのだ)。おれは涙を流しながらそれを書いたよ。ただ一つ永久に恥ずかしいと思うのは、その手紙に、今のあなたは金持ちで持参金まであるのに、僕は兵隊あがりの貧乏士官だ、と書いたことだ――金のことなどを言ったのだ! そんなことはじっと耐えていなければならなかったのに、つい筆がすべってしまったのだ。これといっしょに、モスクワにいたイワンへ手紙でできるだけ詳しく、書簡箋《しょかんせん》を六枚も使ってすべての事情を説明してやって、イワンをあの女のところへやったのだ。おまえ、なんだってそんな目をして僕を眺めるんだい? そりゃあ、イワンはあの女に惚《ほ》れこんでしまったのさ、そして今でも惚れているよ。おれは、なるほど世間の眼から見て、ばかなことをしたものだと、自分でも思ってるのさ。しかし、今となってはそのばかなこと一つだけが、われわれ一同を救うことになるのかもしれないんだ! あああ! おま
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