ードロヴィッチは母屋から最も離れた庭の隅へ客をつれて行った。すると、こんもり繁った菩提樹の木のあいだの、すぐり[#「すぐり」に傍点]や接骨木《にわとこ》や莢叢《がまずみ》やライラックの叢《しげ》みの中から、忽然《こつぜん》として、古ぼけて、まるで残骸のようになった緑色の四阿《あずまや》が現われた。黒ずんでいて、今にも倒れそうになっており、壁は格子になってはいたが、屋根が葺《ふ》いてあって、まだ雨露をしのぐことができそうである。この四阿《あずまや》がいつ建ったかは知るよしもないが、言い伝えによると、なんでも今から五十年ほど前に、当時この家の持ち主であったアレクサンドル・カルロヴィッチ・フォン・シュミットという退職中佐によって建てられたものらしい。しかし、すっかりもう朽ち果てて、床は腐り、床板はぐらついて、用材からは湿っぽい臭いがしていた。四阿《あずまや》のまん中には木製の緑色のテーブルが地面へ掘っ立てになっていて、そのぐるりを、同じく緑色の床几《しょうぎ》が取り囲んでいたが、それにはまだ腰かけることができた。アリョーシャは最初から兄の浮き立った様子に気づいていたが、四阿へはいると、テーブルの上にコニャクの小びんと、杯が置いてあるのを見て取った。
「こりゃあ、コニャクだよ!」とミーチャは笑いだした、「もうおまえは『また酔っ払ってる』とでもいうような眼つきをしてるな。幻影を信じちゃいかんよ。
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偽り多く空ろなる人を信ぜず、
おのが疑惑を忘じたまえ……
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おれは酔っ払っちゃいないんだ、ただ『玩味《がんみ》してる』だけだ。これはおまえのラキーチンの豚野郎の言いぐさだよ。あいつはそのうちに五等官ぐらいにはなるだろうが、やっぱり『玩味する』式の言い方はやめないだろうよ。まあ坐《すわ》れ。おれはね、アリョーシカ、おまえを抱いてつぶれるほどこの胸へ締めつけてやりたいんだよ。だって、世界じゅうに……本当に……(いいかい! いいかい!)ほ・ん・とうにだよ……おれが愛している人間といえば、おまえ一人っきりなんだものなあ!」
この最後の一句を発言する時、彼はほとんど前後を忘却するほど興奮していた。
「おまえ一人っきりなんだよ、いや、もう一人おれはある『卑しい女』に惚れこんでいる。そのためにおれは破滅してしまったんだ。しかし、惚れこむってい
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