ったじゃないか……僕は君までがあの人をそんなに軽蔑していようとは思わなかったよ? ほんとにあの女《ひと》はそうされてもしかたのないような人かねえ?」
「僕があの女のとこへ行くのにも、ちゃんと原因があるかもしれないさ。もうこんなこと君にはたくさんだ。ところが、親類のことだが、それは君の兄貴か、それとも親父さんが、むしろ君をあの女と親類にしてくれるだろうさ。僕の知ったこっちゃないよ。さあ、とうとう来たぜ。君は台所のほうからはいったほうがいいだろう。おや……あれは何だろう、どうしたんだろう? 僕たちが遅刻したのかしら? しかし、こんなに早く済むわけがないて。それとも、カラマゾフ一統がここでもまた、何か騒ぎをやったのかな? てっきりそうだよ。ほら、君の親父さんだ、そしてイワン・フョードロヴィッチもあとから出て来たぜ。あれは修道院長のところから無理無体に飛び出したんだよ。そら、イシール神父が上り段の上から何か二人に声をかけてるぜ。それに君の親父さんもわめきながら手を振っている、確かに悪態をついてるんだよ。おやおや、ミウーソフ氏まで馬車で出かけて行くところだ、ね、見えるだろう。そら、地主のマクシーモフまで駆けて行かあ、――きっと醜態を演じたんだよ。してみると食事はなかったわけだな! ひょっとすると修道院長をひっぱたいたんじゃないかしら? それとも、あの連中がひっぱたかれたのかな? それならいい気味だが!……」
ラキーチンが騒ぎ立てるのも無理ではなかった。事実、古今未曾有《ここんみぞう》の意想外な醜事件がもちあがったのである。いっさいは『霊感《インスピレーション》」から起こったのである。
八 醜態
ミウーソフはイワン・フョードロヴィッチといっしょに修道院長のところへはいって行ったとき、真実申し分のない、デリケートな紳士らしく、急速に一種微妙な心的過程を経て、腹を立てているのが恥ずかしくなってきた。彼は肚《はら》の中で、フョードル・パーヴロヴィッチはどこまでも軽蔑せずにはおれぬげすな人間だから、先刻、長老の庵室でしたように、彼といっしょに冷静を失って、自分まで夢中になることはないのだと思った。『少なくとも、これについて坊さんたちには何の罪もないのだ』と。彼は修道院長のところの上がり口で、急にそう考えた。『もしここの坊さんたちが物のわかった連中でさえあれば、(あのニコラ
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