かないではございませんか?」
「いや、そうではないのじゃ。あなたがこのことについて、そのように苦しみなされる……ただそれだけでたくさんなのじゃから。できるだけのことをなされば、そのうちに、うまく帳尻が合ってきますのじゃ。あなたがそれほど深く、真剣に自分というものを知ることができたからには、もはやあなたは多くのことを行なったわけになりますのじゃ! がもし、今あのように誠実に話されたのも、その誠実さをわしに褒《ほ》めてもらいたいがためだとすれば、もちろんあなたは実行的な愛の道で、何物にも到達されることはありませんぞ。すべてが空想にとどまって、一生は幻のごとくにひらめき過ぎるばかりなのじゃ。やがては来世のことも忘れ果てて、ついには勝手なあきらめに安んじてしまわれることはわかりきっておりますわい」
「あなたはわたくしをおしつぶしておしまいなされました! たった今あなたにそうおっしゃられて、わたくしははじめて気がつきました。ほんとにわたくしは、恩知らずな仕打ちを我慢することができないと白状いたしました時、自分の誠実さを褒めていただくことばかり当てにしておりました。あなたはわたくしに自分というものを知らせてくださいました。あなたはわたくしの正体を取り押えて、わたくしに見せてくださいました!」 
「あなたはしんから、そう言われるのかな? そういう告白をなされたからには、今こそわしは、あなたが誠実なかたで、善良な心を持っておいでだと信じますじゃ。よしや幸福にまでは至らぬにしても、いつも自分はよき道に立っておるということを覚えておって、その道を踏みはずさぬように心がけられたがよい。何より大切なのは偽りを避けることじゃ、あらゆる偽り、ことに自分自身に対する偽りを避けなければなりませぬ。自分の偽りを観察して、一時間ごと、いや一分間ごとにそれを吟味なさるのじゃ。それから、他人に対しても、自分に対しても、あまり潔癖すぎるのもよくありませんぞ。あなたの心の中にあってきたなく思われるものも、あなたがそれに気づいたという一事で、すでに清められておりますのじゃ。恐怖もやはり同じように避けなければなりませんぞ――もっとも、恐怖はすべて偽りの結果にほかならぬのじゃが。また愛の到達についても、けっして自分の狭量を恐れなさるな。そればかりか、その際に犯した自分の良からぬ行ないも、あまり恐れなさることはありま
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