てゐるのは警戒線の隊長で、サルタノフといふ士官です。樺太の名高い男で、土人さへ恐れてゐたのです。なんでも囚人がこの男の手で殺された事はたび/\であつたさうです。ところが今度はさうは行きません。向うが危なくなつてゐます。
 二人の同志は例のチエルケス人でした。大胆で素早くつて、まるで猫のやうに体の利く奴です。先づ一人が正面から向つて行つて、サルタノフと岩の上で打つ付かりました。直き側でサルタノフが拳銃を打つたのを、チエルケス人は蹲《しやが》んで、弾に頭の上を通り越させました。その途端にサルタノフもチエルケス人も倒れました。今一人のチエルケス人は、同志が打たれたと思つて、恐ろしくおこつて飛び掛かりました。まだどうなつたのだか、わたくしにも分からずにゐる内に、弾に頭の上を通り越させたチエルケス人は、胴から切り放したサルタノフの首を握つて立ち上がつて、顔を引き吊らせて笑ひました。
 わたくし共はそれを見て、その場に釘付けにせられたやうになつてゐますと、チエルケス人は国詞《くにことば》で大声にどなつて、サルタノフの首を高く振り上げて、一廻し廻したかと思ふと、海へ投げ込んでしまひました。わたくし共
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