ルクンのくれる肴とを食つて、命を繋いでゐました。オルクンは正直な、好い奴でしたよ。今でもあいつの事は折々思ひ出します。
 持つてゐた二日目の日が暮れたのに、わたくし共は矢張り島にゐるのです。どんなにじれつたかつたか、口では言はれません。その夜も過ぎてしまふ。三日目になつて見ても、まだ同じ風です。
 その時海を見ますと、風が霧を皆吹き払つてしまつたものですから、向岸が好く見えるのです。それを見るといよいよ溜まらなくなつて来るのですね。
 ブランの爺いさんは岩の上に蹲《しやが》んで、向岸ばかり見詰めて、何時間立つても動きません。みんなが木の実を取りに行つても、爺いさんだけは立ちもしません。みんなが気の毒がつて、やつと拾つて来た木の実を、少しづゝ分けて遣りました。大方爺いさんは流浪人の係恋《あこがれ》とでもいふやうな心持になつてゐたのでせう。それとも死ぬる時が近づいたのを、自然に知つてゐたのかも知れません。
 さうしてゐる内に、同志の者が皆我慢し切れなくなつて、とうとう夜になつたら、どうなつても構はないから、漕ぎ出さうといふ事に極めました。どうせ昼の内は漕ぎ出されません。そんな事をしようもの
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