のだな。食物《くひもの》を持つて出ろといふから、お前方の堅パンを持ち出すのだ。水車場にはペトルツシヤアがゐる。若い仲間の一人だ。そこから旅に立つのだな。三日の間は、ゐなくなつたつて、誰も気は付かない。この土地では三日の中に点呼に出さへすれば、咎めない事になつてゐる。病気だと云へば、医者が為事を休ませてくれる。だが、病院は随分ひどい。それよりか働き過ぎて病気になつて、体が利かなくなつた時は、森の中に寝てゐるに限る。さうすれば空気が好いからひとりでに直る。その時点呼に出て行くのだ。そこで四日目になつて点呼に出ないと逃亡と看做《みな》されるのだ。逃亡と看做されてから、遅くなつて帰つて来ると、直ぐにボツクへ載せてはたくのだ。」
「己達はボツクに乗る気遣はない。逃げた以上は帰つては来ないのだから」と、ワシリが云つた。
 ブランは又不機嫌になつて、目の色をどろんとさせて云つた。「帰つて来なければ、森の中の獣が引き裂くか、兵隊が鉄砲で打ち殺すのだ。兵隊は己達をなんとも思つてはゐない。捉まへて面倒を見て、百ヱルストも送つて来るやうな事はしない。見付けたところで打ち殺してしまへば、手数が掛からなくて好い
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