どこで田地を買はうとか云ふ事を持つて来て、可否を問ふのである。又乳を飲ませながら眠つて子供を窒息させたが、その子供の霊が助かるだらうかと尋ねたり、私生児でも救が得られようかと尋ねたりする。
 総《すべ》てこんな事にはセルギウスは聞き飽きてゐる。面白くもなんともない。こんな人達から新しい事を聴くことは決して出来ない。又こんな人達に宗教心を起させようとしても徒労である。それは皆セルギウスには好く分つてゐる。それでもセルギウスは此大勢の人を見るのが厭ではない。此人達は皆自分を尊信して、自分の祝福を受けたり、自分の意見を聞いたりしようと思つて来るのだと思へば憎くもない。そこでセルギウスは此人達をうるさがりながら歓迎してゐるのである。
 番僧セラビオンは群集を追ひ散らさうとした。そして群集に向つて、セルギウス様は疲労してゐられると断つた。併しセルギウスは「子等をして我許に来さしめよ」と云ふ福音書の詞を思つて、自分の挙動に自分でひどく感動しながら、群集を呼び寄せるやうに言ひ付けた。
 セルギウスは身を起して欄《てすり》の所に出た。その外には群集が押し合つて来てゐる。セルギウスは一同に祝福を授けて、
前へ 次へ
全114ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
トルストイ レオ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング