た。
「いいや、わしらには金は要らない。わしらにゃ別に払いがあるわけじゃなし、税金も要らないから、貰ったところで使い道がないからな。」
と言うのでした。
年よった悪魔はひもじい腹を抱えて、ゴロリと横になりました。
すると、このことが、イワンの耳に入りました。人民たちは、イワンのところへ来て、こうたずねました。
「どうしたもんでしょう、立派な紳士が倒れています。あの人は、食い飲みもするし着飾ることもすきだが、働くことがきらいで、『キリスト様の御名によって』物を貰うことをしません。ただ誰にでも金貨をくれます。世間じゃはじめのうちはあの人の欲しがるものをくれてやったが、金貨がたくさんになったので、今じゃ誰もあの人にくれてやるものがありません。どうしたもんでしょう、あのままじゃ餓《う》え死んでしまいます。」
イワンはじっと聞いていました。そして、
「いいとも、いいとも。そりゃ、みんなで養ってやるがいい。牧羊者《ひつじかい》のように一軒一軒かわり番こに養ってやるがいい。」
これより外《ほか》に仕方がありませんでした。年よった悪魔は、かわり番こに家々を廻って食事をさせてもらうようになりまし
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