た。
「馬鹿!お前たちはまったく馬鹿だ!兵隊に行きゃ必ず殺されるときまってやしない。だが行かなきゃイワン王に殺されてしまうんだぞ。」
人民たちはまったく途方にくれてしまいました。そしてイワンの馬鹿のところへ相談に行きました。
「将軍さまが、わしらに兵隊になれとおっしゃる。兵隊になりゃ殺されることがある。しかしならなきゃ、イワン王がわしらをみんな殺される、と言う話ですがほんとですか。」
イワンは大笑いして言いました。
「さあ、わしにもわからん。わし一人でお前さん方をみんな殺すことは出来ないしな。わしが馬鹿でなかったら、そのわけを話すことも出来るが、馬鹿なんでさっぱりわからんのじゃ。」
「それじゃわしらは兵隊にゃなりません。」
と人民たちはいいました。
「いいとも、いいとも。ならんでいい。」
とイワンは答えました。
そこで人民たちは、将軍のところへ行って、兵隊になることをことわりました。年よった悪魔はこの企ての駄目なことを見て取りました。そこでイワンの国を出て、タラカン王のところへ行って言いました。
「イワン王と戦をしてあの国を取ってしまってはいかがでしょう。あの国には金はちっともありませんが、穀物でも牛馬《うしうま》でも、その他何でもどっさりあります。」
そこでタラカン王は戦のしたくに取りかかり、大へんな軍隊を集めて、銃や大砲をよういすると、イワンの国へおしよせました。
人民たちは、イワンのところへかけつけてこう言いました。
「タラカン王が大軍をつれて攻めよせて来ました。」
「あ、いいとも、いいとも。来さしてやれ。」
とイワンは言いました。
タラカン王は、国ざかいを越えると、すぐ斥候を出して、イワンの軍隊のようすをさぐらせました。ところが、驚いたことにさぐってもさぐっても軍隊の影さえも見えません。今にどこからか現われて来るだろうと、待ちに待っていましたが、やはり軍隊らしいものは出て来ません。また、だれ一人タラカン王の軍隊を相手にして戦するものもありませんでした。そこでタラカン王は、村々を占領するために兵隊をつかわしました。兵隊たちが村に入ると、村の者たちは男も女も、びっくりして家《うち》を飛び出し、ものめずらしそうに見ています。兵隊たちが穀物や牛馬などを取りにかかると、要るだけ取らせて、ちっとも抵抗《てむかい》しませんでした。次の村へ行くと、やはり同じことが起りました。そうして兵隊たちは一日二日と進みましたが、どの村へ行っても同じ有様でした。人民たちは何でもかでも兵隊たちの欲しいものはみんな持たせてやって、ちっとも抵抗《てむかい》しないばかりか、攻めに来た兵隊たちを引きとめて、一しょに暮そうとするのでした。
「かわいそうな人たちだな。お前さんたちの国で暮しが出来なけりゃ、どうしておれたちの国へ来なさらないんだ。」
と村の者たちは言うのでした。
兵隊たちはどんどん進みました。けれどもどこまで行っても軍隊にはあいませんでした。ただ働いて食べ、また人をも食べさせてやって、面白く暮していて、抵抗《てむかい》どころか、かえって兵隊たちにこの村に来て一しょに暮せという者ばかりでした。
兵隊たちはがっかりしてしまいました。そして、タラカン王のところへ行って言いました。
「この国では戦が出来ません。どこか他の国へつれて行って下さい。戦はしますがこりゃ一たい何ごとです。まるで豆のスープを切るようなものです。私たちはもうこの国で戦をするのはまっぴらです。」
タラカン王は、かんかんに怒りました。そして兵隊たちに、国中を荒しまわって、村をこわし、穀物や家を焼き、牛馬をみんな殺してしまえと命令しました。そして、
「もしもこの命令に従わない者は残らず死刑にしてしまうぞ。」
と言いました。
兵隊たちはふるえ上って、王の命令通りにしはじめました。かれらは、家や穀物などを焼き、牛馬などを殺しはじめました。しかし、それでも馬鹿たちは抵抗《てむか》わないで、ただ泣くだけでした。おじいさんが泣き、おばあさんが泣き、若い者たちも泣くのでした。
「何だってお前さん方あ、わしらを痛めなさるだあ、何だって役に立つものを駄目にしなさるだあ。欲しけりゃなぜそれを持って行きなさらねえ。」
と人民たちは言うのでした。
兵隊たちはとうとうがまんが出来なくなりました。この上進むことが出来なくなりました。それで、もういうことをきかず、思い思いに逃げ出して行ってしまいました。
一二
年よった悪魔はこの手段を止《よ》す外《ほか》ありませんでした。兵隊を使ったんじゃ、とてもイワンを取っちめることは出来ませんでした。そこで今度は姿をかえて、立派な紳士に化けて、イワンの国に住みこみました。かれは肥満《ふとっちょ》のタラスをやっつけたように、金の力でイワンを
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