あれじゃとてもやりきれない。退屈で、おまけにからだがぶくぶくに肥《ふと》って来るし、食物《たべもの》はまずく、寝りゃからだがいたい。」
とイワンは言いました。そして両親や唖の妹をつれて来て元のように働きはじめました。
「あなたは王様でいらせられます。」
と人民の者が言いました。
「そりゃそれにちがいない。だが王様だって食わなけりゃならん。」
とイワンは言いました。
 そこへ大臣の一人がやって来て言いました。
「金がないので役人たちに払うことが出来ません。」
「いいとも、いいとも。なけりゃ払わんでいい。」
とイワンは言いました。
「でも払わないと、役についてくれません。」
「いいとも、いいとも。役につかないがいい。そうすりゃ、働く時間がたくさんになる。役人たちに肥料《こやし》を運ばせるがいい。それに埃《ごみ》はたくさんたまっている。」
 そこへ人民たちが、裁判してもらいにやって来ました。そして中の一人が、言いました。
「こいつが私の金を盗みました。」
 するとイワンは言いました。
「いいとも、いいとも。そりゃこの男に金が要ったからじゃ。」
 そこで人民たちはイワンが馬鹿だと言うことに気がつきました。そこで妃はイワンにこう言いました。
「人民どもはみなあなたのことを馬鹿だと申しております。」
 するとイワンは言いました。
「いいとも、いいとも。」
 妃はそれでいろいろ考えてみました。しかし妃もやはり馬鹿でした。
「夫にさからってはいいものかしら、針の行くところへは糸も従って行くんだもの。」
と思いました。
 そこで妃は着ていた妃の服をぬいで箪笥にしまい、唖娘のところへ行って百姓仕事を教わりました。そしてぼつぼつ仕事をおぼえると、夫の手だすけをしはじめました。
 そこで賢い人はみんなイワンの国から出て行き、馬鹿ばかり残りました。
 誰も金を持っていませんでした。みんなたっしゃで働きました。お互いに働いて食べ、また他の人をも養いました。

        一〇

 年よった悪魔は、三人の兄弟を取っちめたと言うたよりが来るか来るかと待っていました。が待っても待っても来ませんでした。そこで自分で出かけて行って、調べはじめました。かれはさんざんさがしまわりました。ところが三人の小悪魔にはあえないで、三つの小さな穴を見つけただけでした。
「てっきりやりしくじったにちがいない。そうと
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