来い。あいつでなくては此|為事《しごと》は所詮出来ない。」
「丁度好い。ドルフが来た。」ぢき傍で一人の若者がかう云つた。
 ドルフは此の時やつと集まつてゐる人達を見定めることが出来た。皆友達である。船頭仲間である。劇《はげし》く手真似をして叫びかはす群が忽ちドルフの周囲《まはり》へ寄つて来た。中に干魚《ひもの》のやうな皺の寄つた爺いさんがゐて、ドルフの肩に手を置いた。「ドルフ。一人沈みさうになつてゐるのだ。頼む。早く着物を脱いでくれ。」
 ドルフは俯して暗い水を見た。岸辺の松明を見た。仰いで頭の上にかぶさり掛かつてゐる黒い夜を見た。それから周囲に集まつて居る友達を見た。「済まないが、けふはこらへてくれ。女房のリイケが産をし掛けてゐる。生憎《あいにく》己の命が己の物でなくなつてゐる。」
「さう云ふな。おぬしの外には頼む人が無い。」かう云ひさして爺いさんは水の滴る自分の着物を指さした。「己も子供が三人ある。それでももう二度|潜《もぐ》つて見た。どうも己の手にはをへねえ。」
 ドルフは周囲の友達をずらつと見廻した。「いく地がないなあ。一人も助けにはいるものはないのかい。」
 爺いさんが又ドル
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